痛快! 病ンデレラの逆襲

「スゴイですね。専用エレベーターって」

「普通だろ。今、持っているICカードがなければ、このエレベーターは開かないし、動かない」

どうやら渡されたICカードはV.I.P.専用みたいだ。
最上階三十八階までノンストップで上がり、エレベーターのドアが開く。

「社長、何ですかここ!」

まるでホテルだ。フカフカの赤い絨毯、クラシカルな彫り模様を施した腰壁、そして、上部の真っ白な壁面には等間隔に飾られた高価そうな絵画。

「前にも言っただろ、成り上がりだって。重役フロアーにこだわりを持っているんだ。現社長の意向より総帥様の意見が取り入れられた結果だ。ワンマンだからな、あの人」

嗚呼、だんだん分かってきた。偽の婚約者まで仕立てて事前に断ろうとしているわけが。

先を行く社長が振り返り、私を見る。

「行くぞ!」

エスコートするみたいに、ガラス扉を開け、私を先に中へ誘う。
カウンターの奥で、秘書らしいキリリとした男女が立ち上がり丁寧にお辞儀をするが、私のコック姿に受付嬢と同じ反応を示す。だが、流石、社長付きの秘書、すぐに平静を装う。

「いらっしゃいませ。殿宮様」
「ごきげんよう。三宅さん、三井さん」

三井と呼ばれた男性秘書がカウンターから出てくるが、社長の手が私の腰にあるのを見ると、一瞬、能面のような顔に翳りが浮かぶ。

何だろ、この反応は?

「あの、失礼とは存じますが、そちらの方は?」

そりゃあ、確認するよね。

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