痛快! 病ンデレラの逆襲

「それ以来会っていないの?」

梨子が訊ねる。

「そう、彼の前から完全に姿を消したのは私、フラれたのに期待して待つのが辛かったから……」

駄目だ、こっちの方はまだ迷路の中だ。

「あらら、姫は混乱の真っ最中かしら?」

要子がクスクス笑う。

「説明しよう! 夢子は男でミズ・ミミも男……性を超えた愛! これが俗にいうBL。ボーイズ・ラヴというものなのだ」

梨子が腰に手を置き、ウハハハハと何故か高笑いをする。
微妙にランナーズハイ?

「はぁ」

刺激が強過ぎて、目の前がチカチカする。

「彼とのお付き合いは本気だったわ。できることなら一生彼と一緒にいたかった」

遠い目でカップの中を見つめる夢子。
瞳がウルウルして……少女漫画の主人公みたい。

「恋はピンク色ばかりじゃないのよ」

梨子が溜息を付く。
要子がフルフルと頭を振り、こちらも溜息を付く。

「梨子ちゃんの場合、お互いサッサと正直になっちゃえばいいのよ」
「私のことは放っておいて!」

恋かぁ、恋ねぇ、と夢子と梨子を交互に見ながら、いろいろ大変なんだぁ、とクッキーを口に入れる。

モグモグ食べながら、あら、本当に美味しい、と残ったもう一個を見る。
あっ、これお千代さんに持って帰ってあげよう、と思っていると……。

「いいわよねぇ、姫は」

三人の視線が指輪に集中していた。

イヤ、よくないですよ。この指輪は愛だの恋だのを象徴したものではなく、牛を象徴したものですから。

そう言えば、社長はいつ牛を食べに連れて行ってくれるのだろう、とローズの香りを楽しみながら分厚いステーキを思い浮かべる。

< 88 / 165 >

この作品をシェア

pagetop