痛快! 病ンデレラの逆襲

「姫様、背筋をお伸ばしあそばせ! みっとものうございます」

十二月に入ると寒さは一層厳しくなり、首を縮めたくなる。
そして、毎年、お千代さんに注意される。
だから私は寒い時ほど、天に頭上を引っ張られるように背中と首を伸ばす。

「姫って本当に姿勢がいいわね」
「本当、本当」
「やっぱり元お嬢様だわ」

不思議だ。どうして私は彼女たちと早朝ウォーキングをしているのだろう?

そう、あれは十一月三十日の夜のことだった。
例の如く、帰宅するのを待ち構えていたかのように夢子宅へ拉致された。
何事かと思えば「霜月END&ENJOY鍋パーティー!」とのことだった。
何の事やらだ。

「今日のお鍋は豆乳鍋。女性ホルモンと同様の働きをする大豆に含まれるイソフラボンで冷え性もバッチリ解決! 良質なタンパク質も摂取できるから美肌効果も抜群。さぁ、綺麗になりましょう!」

仕事では栄養素が何チャラカンチャラ言っているが、私生活では生きるため、食べたいものを食べたいだけ食べている。美容のビも思ったことがない。

やっぱり夢子を男性とは思えない。女子力半端ないわぁ、と感心する。

「でもねぇ、冬になるとプクプクしちゃうのよねぇ」

散々食べていた梨子が、シメのうどんが投入されるのを悲し気に見つめる。

「あらっ、じゃあ、梨子ちゃんも明日から付き合う?」

夢子がニタリと笑う。

「有酸素運動で美貌を保ちつつ、この冬を乗り切りましょう!」

夢子の言葉にその場が大いに盛り上がり……で、どうして私まで……。

「梨子ちゃん、着膨れしていない? これから運動するのに、それはないと思うよ」

雪だるま状態の梨子に要子が言う。

「まっ、歩いているうちに脱ぎたくなるから大丈夫」

夢子がクスクス笑いながら歩き出す。

でも、早朝の街はどこか空気が違う。神聖な気持ちになる。
生まれたての清々しい冷たい空気を思い切り吸い込み、大きく吐き出すと、三人と一緒に歩き出す。

少しワクワクしながら、何かを期待するようにドキドキしながら。
そして、頭をズキズキさせながら。

風邪をひいたのかな?

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