鬼麟
「……はな、して」

口にしたはいいが、これでどうになるとは到底思えない。

案の定彼は大きな溜め息を吐き、見下ろす瞳が炎へと変わった。

「なに、天然なの? 駄目って、言ったのにさ」

ねぇ、なっちゃん?

と、徐々に近付いてくる顔。突然のことに驚きの声が漏れるが、それを無視して迫る顔。

万事休すに目をギュッと瞑ると、携帯特有の機械音が鳴り響いた。

恐る恐る開いた目に映るのは、残り数センチの距離であったという事実。思わず吐く安堵の息に、助かったと心臓を落ち着かせる。

蒼は不満そうな顔のまま、ズボンのポッケを探ると出てきたのは可愛いキーホルダーの沢山ついたスマホ。それをおもむろに耳に押し当てると、如何にも不機嫌な声で返事をする。

場違いにも、そこは可愛いキャラじゃないのかと言いたくなってしまう。口は災いの元。お口はチャックするのがよろしいのだ。

「うん、わかったよ」

何を話していたのかは聞き取れなかったが、彼は何かに対して了承の意を返すとすぐに切り、それをそそくさと閉まってしまう。
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