鬼麟
なんて見苦しい妄執なのか。今更そんなことを思うなど、みっともない執着に他ならない。

自分から背を向けたことに対し、都合の良過ぎる考えに吐き気すら込み上げる。最低なのはどうしても治せないのか。

急に大人しくなる私に、蒼が顔を覗く。

「なっちゃん?」

「……降ろして」

耳に入るのは自身の冷えきった声だった。

自身の妄執に取り憑かれ、溺れそうな私は今、果たしてどんな顔をしているのか気になる。

蒼はそんな私に気付いていなく、もうすぐだから、とやはり話を聞かない。

そういえば、と脳裏に浮かぶ顔。話を聞かないのは、あいつも同じだった。

またしても溺れそうになって、手足の先から冷えていくようだ。“仕方ない”とは言わないが、言い訳くらいは赦されると思いたい。

そんな最低な考えに沈んでいると、蒼が立ち止まる。目の前には屋上への扉。

蒼の声でどうにか我に返るが、逃げられないようにと未だ降ろされる気配はない。逃げ損なったと、また別の手段を考えようとするが、額に押し当てられた熱にそれすらも阻まれる。
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