鬼麟
「なっちゃん、僕何もしないよー?」

何をしれっと言いやがるんだこいつ。したじゃねぇか、さっき。

すっとぼけてふざけたことを吐かす蒼を無言で睨むと、小首を傾げているのがふてぶてしい。確かに顔は可愛いのだが、可愛いからって何でも許されると思ったら大間違いだ。

「そうそう、蒼。アレ、俺らから丸見えだったぞ」

さっきまで、鬼ごっこしていてたのは東校舎で、ここは西校舎の屋上。窓がない分中まで見渡せるこの造りでは、ここからでも十二分に見える範囲だ。

なんてことだ。

押し倒される場面をばっちりと見られていたらしく、レオは意地悪にもさらに追い討ちをかける。

「いや〜、棗ちゃんのが見えそうで見えなかった」

一瞬わからなかったが、レオの視線を辿りその答えに行き着く。反射的にスカートの裾を押さえ、熱くなりそうな頬のままに恨めしく睨めば、「イイね、唆られる」などと瞳を光らせる。

馬鹿なんじゃないかと思う。こんな顔して中身おっさんかよと罵る胸中を他所に、乾いた音が鳴る。
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