鬼麟
が、それよりも先に視線を逸らしたのは修人で、無愛想な口ぶりのままに手元を見る。

「それ」

私も後を追い、自分の手元を見下ろす。そして、修人の指す“それ”が顔を覗かせている。

制服の袖口から覗くのは白い包帯の端っこ。強く右手首を握り締めていたせいで解けてしまったらしい。

修人の顔を見上げれば、怪訝な顔をしていてそれは確かに疑念を抱いているようだった。

私は息を落ち着けながらそれを袖口の中へと仕舞う。

「縛り直さないのか」

それよりも聞きたいことを呑み込んで、単純な疑問だけをぶつける修人。けれどそれにすら苛立ちを覚えてしまうのは、見られてしまったことへの怒りだ。

無視して紡いだのは先の質問への答え。

「南だよ。南の街」

動揺なんてしていられない。してたまるかと、泣きたくなる気持ちを無理矢理押さえ付ける。背負うものなのだ、これは。

露骨なその話のすり替え方に、ただ一人蒼だけはけらけらと笑っていた。

そこへ、修人の目が見開かれ迫るように声を荒らげた。

「お前、鬼龍のこと知ってるのか」
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