鬼麟
知っているも何も、私の居場所だったものだ。知っているかと聞かれれば、骨の髄まで知り尽くしていると答える。もちろん、口に出すようなヘマはしない。

その必死さに、少しだけ後ろめたさがあった。

「鬼龍は知ってる。私の街にいたから」

「鬼麟は、今どこに、」

「私は関係者じゃない」

掴まれた肩が痛むのに眉を顰めて言い返すと、バツが悪そうに舌打ちをする。暗くなるその瞳に、思わずなんでと心の中で呟く。

なんで私なんかに。

「……もう、いないのに」

口から零れ出たそれに、聞き逃す程離れていない距離にいる彼らは反応した。蒼が今までとは違う真剣な面持ちで言うのに、目を逸らす。

「それ、どういうこと? なっちゃん」

関係ないでしょう、と口走ってしまえば取り返しがつかなくなる。私は今は一般人なのだから。私は結局黙るという手を使う。

鬼龍は、全国で一位の暴走族だ。そして、私の居場所だった、帰りたいけど帰れない場所。

鬼麟も、懐かしい名前だ。離れてそんなに経っていないというのに、馴染むその名前に懐かしいと思ってしまう。けれどそれは私が穢した名前だ。

私はもう、帰れない。
< 33 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop