鬼麟
途端に蘇る、昨日の言葉。

兄弟だと、確かあの黒髪の彼は言っていた。

後ろ手に扉を閉めつつ、よくよく見れば確かに倖に似ていると思わなくもない。

「ああ、篠原さんですか」

担任というのは司書も勤めるのだろうか。

彼は珍しいという来客者の顔を確認すると、すぐにカウンターへと引っ込む。何かの分厚い本を捲る横顔は様になっていて、教師職よりも司書の方がよっぽど似合う。

「ここ、担当の人がいないんですよ。だから俺が担当としているんです。幸いなことに、本も嫌いじゃないですから」

私の頭の中を覗いてるような、そんな錯覚すら覚える回答。あまりにも無遠慮に向けられた視線に、先生は苦笑いしながら本を閉じた。

そうなんですか、とやはり曖昧にしか返せない返事。けれど先生は何も気にすることなどないらしく、何かを思い出したかのようにカウンター内を探り始めた。

一体何を探しているのやら、カウンター下へと頭を突っ込んだかと思うと、すぐに飛び出た先生。その手には一冊の赤い分厚い本が握られている。
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