鬼麟
そんな私にも先生は動じることなく、そっと私の手の上に重ねられた手が熱を持っていた。

否、冷えきっているのは私の手だった。

「私は、もう、」

「変わりませんよ、あなたがそのままでは」

幼子を諭すわけでもなく、淡々と突きつけられた事実。私が心の底ではわかっていた、最もなこと。最も過ぎて、何も言い返せない。

途端に自身の愚かさを思い出し、慌てて手を離すと、小さく息を吐く先生。

「ごめんなさ、」

「いいですよ、俺が意地悪し過ぎましたから」

手を上げそうになったことに、傷付けてしまいそうになったことへの謝罪に、先生は優しく微笑んだ。けれど、その瞳の奥に少なからずもあったのは紛れもない恐怖で、このままどこか深い水の底へと沈みたくなる。

どうして私は傷付けることしかできないのか。自身の重ねた罪を嘆きたくなる。

もう見たくはないのに、とじわじわと浮かぶ後悔の念。

「俺は何も知りません」

先生は椅子に座り直し、タイを直して言った。

「だからこそ言います。逃げていては、何も変わりませんよ」

そんなことはとっくに分かっていた、解っているのだ。けれど、私の犯した罪は重過ぎる。
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