鬼麟
瞬きする度にチラつくのは、あの光景だ。それはまるで静止画のように、瞬間的に映っては、ゆっくりと時間を遡行していく。

私は、静かに滲み出す。全力で、全快で、相手をただただ殺すという意思を示す。

「あなたがもし、無駄なことをするならば、私はあなたを潰す。――きっと殺しちゃう」

私は、そういう女なのだから。

本気の、それこそ今すぐにでもその首を握り潰す画を思い描きながらの殺気に、彼は顔色を変えずにいる。そこで一つの疑問が、確定と確信を持って解消された。

彼は恐らく、裏で生きる人だ。

何の目的を持ち、何の役割を担ってここにいるのかは知らないが、一般人であったならばこうも涼しい顔をしていられるはずがない。

私は踵を返し、下に落ちたままの本を拾うことなく通り過ぎる。

関わるなと、言ったのに。苦虫を噛み潰したかのような気持ちに苛まれ、気分は最高に最悪だ。

昨日の言葉は何も生徒だけでなく、先生への言葉でもあったというのに、どうしてこうも絡んでくるのか。私なりの境界線を、土足で踏み越えないで欲しい。
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