鬼麟
「……どうしたんだ」
感情の色を見せず、静かに再度問われる。
逃す気はないと、強く引かれた腕。彼の手に今にも引きずり込もうとする紅い手が視え、喉から声にならない音が漏れ出る。
ゆっくりと彼の手から腕へと這い上がり、頬を撫ぜて取り込もうと沈み込む。背後に微笑むその瞳が、どこまでも追い掛けると不敵に細められる。
堪らず振り払い、掴まれた腕を胸へと抱え込み一歩後ずさる。霧散する紅い欠片を睨み付けても、それはもう跡形もない幻なのだ。
「ただ、夢を見ただけだから」
怖い夢――悪夢だった。
夢はいつか覚めるものだと言うが、悪夢はいつになっても覚めやしない。身体の目醒めと、意識の目覚めに齟齬が生まれ、あたかも現実へと滲み出たかのように幻を見ることもある。
「本当のことを言え」
彼の目には不満が浮かび、僅かに顰められた眉。上からと下からとで視線が混ざり、そこには相容れない壁が立ちはだかっていた。
「どうして、あなたに話す必要があるの? 言ったら何か変わるとでも?」
だから嫌いだ。
感情の色を見せず、静かに再度問われる。
逃す気はないと、強く引かれた腕。彼の手に今にも引きずり込もうとする紅い手が視え、喉から声にならない音が漏れ出る。
ゆっくりと彼の手から腕へと這い上がり、頬を撫ぜて取り込もうと沈み込む。背後に微笑むその瞳が、どこまでも追い掛けると不敵に細められる。
堪らず振り払い、掴まれた腕を胸へと抱え込み一歩後ずさる。霧散する紅い欠片を睨み付けても、それはもう跡形もない幻なのだ。
「ただ、夢を見ただけだから」
怖い夢――悪夢だった。
夢はいつか覚めるものだと言うが、悪夢はいつになっても覚めやしない。身体の目醒めと、意識の目覚めに齟齬が生まれ、あたかも現実へと滲み出たかのように幻を見ることもある。
「本当のことを言え」
彼の目には不満が浮かび、僅かに顰められた眉。上からと下からとで視線が混ざり、そこには相容れない壁が立ちはだかっていた。
「どうして、あなたに話す必要があるの? 言ったら何か変わるとでも?」
だから嫌いだ。