鬼麟
事情も知らないくせに、土足で人の領域へと入り込もうとする奴らは嫌いだ。虫唾が走る。

何故彼に話す必要があるのか。そもそも本当のこととは何なのか。何をもって本当とするのか、ご教授して頂けるとでも言うのか。

傲慢で不遜なその口から漏れ出るのはノイズでしかない。耳障りだ、いっそ憎たらしいほどに。

「自惚れないで、あなたに助けなんて求めるほど落ちぶれてないから。それに、一人じゃなんにもできない臆病者に話すこともない」

廊下に送った視線に、申し訳なそうに眉を下げた倖が姿を現す。隠れていたことに対してか、見つかってしまったことに対してか、彼はごめんと静かに言った。

謝罪なんて求めていない。

修人は何も言わずに立ち上がり、倖へと視線を送る。倖は疑問と警戒に満ちた目で私を見据える。

「棗さん、君は何者なんですか。勝手は承知の上で調べさせて貰いましたが」

何も出てきませんでした。

彼は副総長。得体の知れない奴に対して警戒するのは当たり前で、もちろん情報がなければ集めるに決まっている。
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