鬼麟
安い挑発をかけたのは私なのに、私を守ろうとするのか。要らない世話だ。

「女でも、馬鹿にされて黙っとくわけにはいかねぇよ」

低く唸るように言い、彼は私との距離を埋める。

本当に私が一般人であったならば、それだけでも恐怖するのだろう。けれどそこに恐怖を覚えることなんてない。

胸倉を掴み上げられ、釦が耐え切れずに飛び散る。ぐっと近付く顔に、吐息が混ざるも止められない。

苛立ちを隠せないのは一緒で、最初にムカつかせたのはそっちだ。

出し惜しみなどしないで、全力で放つ殺気。殺すことを口にも出さず、空気だけで伝える。

するりと離れた手のままに、彼は膝をつき驚愕に目を丸くする。それは彼等も同じで、質の違いというものを見せつける。

あんまりやるものではない、と言ったのは果たして誰だったか。

ここの連中は私を苛つかせる天才だから、これはいわば不可抗力だ。したくてしたわけではなく、そうさせたからそうしたまで。

「だから弱いんだよ」

忠告を破り、構わず進んだのはそちらの落ち度。私の問題ではない。彼等の自業自得というものだ。
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