鬼麟
重さも、意味も、全部知っている。知っているからこそ、手なんて伸ばすわけにはいかない。

――じゃあどうして裏切るの?

言葉とは裏腹な本心が脳に響き渡る。

朱色の着物を纏い、腰まである黒髪が風に攫われる。その手の爪は剥がれ、剥き出しの肉が腐りかけの林檎を彷彿とさせる。醜いそれは、幼い私。

否定も受け容れず、肯定もまた受け容れない。何をしても私は私自身を陥れ、塗り固めた嘘を強要することでしか存在意義を保てない。

「ごめんなさい」

風に攫われた少女の残滓を追い掛けて、呟かれた言葉を聞き届ける者はいない。

暴走族が、どれ程世間から嫌われていようとも、彼等にとって居場所には他ならない。それをあろう事か私は侮辱したのだ。

自分だって解っているのに、そこがどんなにかけがえのない自身の居場所なのかさえも知っていたというのに。けれど、それをレオに言ってどうとなる。

恨まれても、疎まれても、やはり私は嘘を重ねるしかないのだろう。結局言い訳を並べ立てることとなって、ほとほと嫌気がさす。
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