鬼麟
「……さっきはあんなに怒ってたくせに」

「謝られたのにぐちぐち言うのは格好悪いでしょ」

しれっとした口調で言うものだから、逆にこっちが呆気に取られる。どんな理屈なんだそれは。申し訳ないとか思って少しでも悩んだ私が馬鹿みたいじゃないか。

実はあの時怒っていなかったのでは、とも思うけれどそれは流石にないだろう。

「それに俺、棗ちゃん気に入っちゃったから」

上機嫌なレオだが、こっちの気分はさながら葬式だ。だから気に入られたりとかされたくないんだってば、と聞こえるわけもない心の声。

「で、あの殺気は何だったのかな」

急に真面目な口調になり、その雰囲気は返す言葉によっては逃さないと、言外に含まれていた。

こっちとしては冷や汗が背中を伝い、バレることへの警戒が強まる。が、それも杞憂へと変わる。

「とは聞かないでおくよ。今のところはね」

肩透かしを喰らった気分に、黙り込んでしまえば彼は目的地に到着だと、昨日と同じ屋上に着いた。
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