鬼麟
そこには蒼と倖、修人の姿があり、誰も怒っている様子はなかった。訝しく思いつつも、肩から降ろされ足をつけるが、扉は閉ざされ、さらには行く手を阻むようにレオがその間に立つ。

目に見えて怒っていないのが逆に怖く見え、蒼の笑みですら裏があるのではと変に勘繰ってしまう。

修人の目が細められ、変わる空気。

やめて、と何度も心が叫ぶ。

純粋なその瞳が、私を見透かしているようで肌が粟立つ。そんな目で、私を捉えるなと喚き散らせば楽になれるだろうか。

「女が欲しいなら、他を当たって」

何故か焦りから、とうに枯れてしまった涙が恋しくなる。可笑しな話だ。

「俺達は、お前のことは知らねぇ」

なら放っておいてくれ。知らないままでいてくれ、それが最優の選択なんだ。

それを言葉にする前に紡がれる。

「けどもう気に入った」

その瞳が物語るのは、拒否を認めない決定事項。子供じみたその我儘に、私には迷惑しかないというのに、呆れを通り越して尊敬の念を覚える。
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