鬼麟
廊下は珍しく誰もいないようで、その代わり各教室内ではいつもより騒がしい声が響いている。

先生は、壁に寄りかかり腕を組んでいて、嫌味に見えないのはなんとなく様になっているからだろう。モデルのようなその仕草に、これだからイケメンは、と内心愚痴を零しつつ近寄る。

「大丈夫でしたか?」

主語のない心配に、小首を傾げてみると、彼は自分の手を指差す。次いで合点がいき、小さく頷いてみると彼は苦笑混じりに謝った。

先生が謝るようなことなんて、何もしていないというのに、律儀な人だと思う。

以前胸倉を掴んでしまったことへの罪悪感は未だに燻っていて、なんとなく彼に話し辛さを覚えてしまう。正直言って、気まずいのだ。

けれど、先生はそれを気にしている様子はなく、普通に話を進めるのでこちらが狂ってしまう。

「篠原さんは、“頼る”ことにしたんですか?」

細められた瞳は私を見極めようと、込められた言葉の意味が這い寄る。

「先生には、関係ないじゃないですか」

「担任ですから」

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