鬼麟
滑稽だ。何もできずにいる私は、なんて滑稽なんだ。傀儡の如く、心まで消えてしまっていたなら、きっと彼はあんなことをせずに済んだかもしれない。私が逃げなければ、あの人達も生きていたのに。泣き喚くことも、もう億劫に感じてしまうのだから。

「――大嫌い」

見下ろす先にある血の奥に微笑むそれが頭から離れない。

急速に冷えていく私の心に、どこかで良かったなんて思う自分がいる。廊下に人が出ていないせいで、見つかるのは少し遅れるかもしれない。

弱いのは私の方だ。やはり、私は異常者なんだろうか、なんて。

不意に、視界の端で揺れた白に目がいく。

戒めの白が、先生の血により赤く染め上がる様に、喉から漏れでる声にならない悲鳴。

何度も何度も、反撃の隙を与えずに殴り続けた手から滴る血を辿れば、袖から覗いた露わになった“ソレ”。

先生が呻くのに、まただ、と頭痛にふらつく。

悔やんでも、無意味だと嘲笑う風が吹き抜け、鼻腔を鉄の香りが擽った。
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