鬼麟
大嫌いで、憎らしい、馴染みのある懐かしい匂い。

何度謝っても、取り返しのつかないことをしてしまった。傷付け、罪を重ねてしまったことへの自身に対する軽蔑。

思い知っていたはずなのに、どうして私はこんなことしかできないのか。

頬から温かいものが流れ出て、喉の奥が苦しくて、微かに漏れた嗚咽が鼓膜を突き抜けた。床を濡らす雫が、血の中に波紋をつくる。

ボヤけた視界の中で、先生が見下ろす私に手を伸ばす。取れないことを知っているのか、彼は私の頬を撫ぜ静かに口を開いた。

「おい、どういうことだ」

先生の声を遮るようにして入る、第三者の声に振り向く。蒼とレオ、それに倖と修人がこの惨状に驚きで目を丸くしていた。その後ろではほかの生徒の姿も見え、恐怖の色も滲んでいた。

「修人、保健室に」

倖は話はそれからだと、先生の手を取る。蒼とレオもそれに続いて、修人が私を見据えた。

責められるべき、咎められるべきことをしたのに、そこには軽蔑も怒りもなく、ただ優しい眼差しだ。

「棗、来い」

右手首を握りながら、私は首を振る。行けない、行けるはずがない。
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