鬼麟
一瞬目を瞬かせたが、それでももとの表情へと戻り、保健室へと促すように添えられた手。
私は首を横に振り、静かにその手を降ろさせた。

行かなくちゃいけない。謝ることもしなくちゃいけない。それも解っている。

けれど、合わせる顔なんて今の私には持ち合わせていない。知っていたのに、私は抑え切れなかったから。

問いかける言葉の奥に、淡く色付けるように濁された心配を。

それを拒み、さらには怪我まで負わせてしまった。彼は確かに、「大丈夫だから」と言ったけれど、それでもどの面下げて行けばいいのかが解らない。

倖にもきっと軽蔑をされてしまうだろう。

悲しいわけではない。ただ、私を知らないがためにこうなってしまったことすら知らない人達に、罪悪感ばかりが込み上げてとうに枯れたと思う涙が頬を濡らす。

あいつらのように、私を私として受け入れてくれるかもしれない。そんな高望みをした罰かもしれない。小さくはあったけれど、心のどこかで少なからず思っていたことへの代償がこれだ。
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