鬼麟
「いいのか、このままで」

良いわけがない。

あの人の心配を踏み躙ってしまったことには罪悪感も感じているし、謝りたいとすら思うのだから。動かない足が震えて、どうして私が被害者ぶるのか可笑しくて仕方ない。

「お前が何を思ってああしたのかは知らねぇが、それは礼儀としてはどうなんだ。筋が通らねぇぞ」

受け入りだがな、と彼は穏やかに肩を下ろす。

私が散々周りに言ってきたのに、総長である私がそれをできていない。こんなんじゃ笑われてしまう。

小さな声で行く意思を表明すれば、彼は落ちた涙に微笑む。一つしか歳は離れていないというのに、どこか子供扱いされているような気がして不服だけれども、敢えてそれは口にしなかった。

――優しい手が、似ていたから。




一階の廊下は思った以上に閑散としていて、2人の足音が遠くまで響く。会話なんてないこの状況下、頭の中は先生にどう謝るかでいっぱいだった。そして、どうして知っていたのか。何を知っているのか。
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