この恋を、忘れるしかなかった。
浮かんできたのは、霧島くんの笑顔だった。


職員室に着いたわたしはふぅと息を吐くと、余ったお饅頭を机の隅に置いた。
どうかしてる…わたし。
全てはあの日、罰ゲームで嘘の告白をされた時から、わたしの中の何かがおかしくなってしまったみたいで、この気持ちを否定しきれない自分がイヤになる。
「…」
何となく目に入った霧島くんのスケッチブックを手に取り、パラパラとめくる。
新しい絵が1枚ーーー沖縄の、キレイな青緑色の海だった。

「…あ!」
気付いたのと同時に、わたしの手はケータイを触っていた。
霧島くんの絵は鉛筆で描かれているーーーそれを沖縄の海だと見た瞬間わかったのは、前に霧島くんが送ってくれた写真の中に、同じものがあったから。
鉛筆で描かれているその海は、当然白黒で色などないのだけど、不思議とそこに色を感じる。
それが、霧島くんの描く絵の最大の魅力なのだと思う。


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