この恋を、忘れるしかなかった。
「な、何言って……」
明らかに挙動不振のわたしに対して、冷静な様子の霧島くん。
「リカちゃん先生ってあだ名、甲斐が付けたのも納得」
うんうんと頷きながら、ひとり言まで言っていた。

落ち着けわたし、生徒相手にドギマギしてどうすんのよ⁈

「やっぱりかわいいね」
その一言に、真冬だというのに汗が噴き出しそうだった。

「からかうの、いい加減にしてよね…。そういう事は、か、彼女に言いなさい」
「えーっ、だってカノジョより先生の方がかわいいんだもん」
「…」
ぶすっとした霧島くんを視界に捉えたわたしが、急に冷静になってきたのが自分でも良くわかった。
冷たくなる指先を、そっと見つめていたわたし。

彼女…いるんじゃん。

まぁ、そうだよね、彼女くらいいるよね。

むしろ良かったじゃない、これで霧島くんの言動にいちいち振り回されなくて済むのだから。
なのに、何でかな…淋しく思ったのもまた事実で。

「はいはい、ありがとう」
今度は、サラッと返せたわたし。

これでいい、わたしは教師で霧島くんは生徒。
嘘でも好きだなんて言われたもんだから意識しすぎていたんだ、きっと。
霧島くんには彼女がいて、わたしにも志朗さんがいる。


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