この恋を、忘れるしかなかった。
「き、霧島くん……?」
「先生の手、冷たすぎ(笑)。ここ寒いから、風邪ひかないようにね」
握っていた手を離した霧島くんは、律儀に饅頭ごちそうさまと言ってから帰って行った。

「……」
霧島くんに握られた右手が…じんわりとあたたかくなって、それが全身に伝わる頃、わたしはドキドキが止まらなくなっていた。
どういうつもりで手なんか…彼女いるくせに……。
そこまで思ってすぐに、わたしの頭の中には写真で見た女の子ーーー霧島くんの彼女が浮かんできた。
次第に冷める、覚めていく身体。
「さぁっ、仕事仕事!」
わたしは誰もいない美術室で、ひとり声をあげた。

生徒に振り回されるなんて最近のわたしはどうかしてる…しっかりしなきゃ。


準備室であれこれ作業をしているうちに、まだ17時を過ぎたところだというのに、気がつけば外は暗くなっていた。

ヘッドライトをつけたわたしの車が、家へと向かう。

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