この恋を、忘れるしかなかった。
"かわいいね、安藤先生って"
霧島くんの言葉が、離れなかったーーー。


「おかえり梨花子」
「あ、ただいま志朗さん、今日は早かったのね」
普段は部活や付き合いなんかで遅い志朗さんが既に帰宅していて、缶ビールを空けていた。

「そう言うなよ。初日だから部活もないしな」
「そっか、そうだね」
「梨花子も飲むか?」
わたしは志朗さんが手渡してくれたビールの缶を開けると、ひと口のどを潤した。

「…ふふ」
「どうした?」
思わず笑みがこぼれたわたしに、志朗さんは不思議そうな表情をしていた。
志朗さんと一緒にお酒を飲むだなんて、いつ振りだろう。

「一緒に飲むの、久しぶりだなって思っただけ!」
「年末に飲んだじゃないか」
志朗さんは、はははと小さく笑った。

確かに年末にも志朗さんとお酒を飲んだけど、それはあくまでも休みの日のことであって、仕事が終わってからのお酒は、わたしの中では少し違っていた。
平日は、すれ違いばかりだから。
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