この恋を、忘れるしかなかった。
「何か作ろうか。着替えてくるね」
わたしはビールの缶をテーブルに置くと、リビングを後にした。

その晩、お酒が手伝ってくれたこともあって、わたしと志朗さんは、久しぶりに体を重ねた。

それなのに、志朗さんからの愛撫を受けるわたしは、わたしの身体は、高揚するどころか罪悪感を覚えてしまった。

なぜだか霧島くんの顔がチラついて、志朗さんの求めに戸惑うことしか出来なかったから…。

本当にどうかしてる、わたし。


◇◇◇


「うわ、すごい人」
あれから1カ月程過ぎて2月になり、バレンタイン間近の今日、仕事を早めに切り上げたわたしはデパートのバレンタインコーナーに来ていた。

名古屋の有名デパートの中のひとつであるこのデパートには、毎年100以上ものブランドが出店していて、そこに群がる人の波は酔いそうな程だった。

わたしはその中のひとつのお店の列に並びながら、チョコレートがいくつ必要か指を折って数えていた時、
「…梨花子⁈」
ふいに、わたしを呼ぶ声が耳に入ってきた。


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