GENERATIONS LOVE
「…男前ですよね…」


今心の中で思った言葉が、隣から聞こえ、驚く。
一緒にホールの最終チェックをしていた
水城さんが、神山さんを見つめたまま呟いた。


「包容力があって、優しくて…
仕事として、やってたことだから…負担
だ なんて思わなかったのに…
ちゃんと見ててくれてた…」


私に話しているというより、
ただ嬉しくて、込み上げる想いを口に出している。そんなふうに見える。


そして、その表情が意味するものに
気付いてしまう。


水城さん…神山さんのことが…


ちくっと…針で刺されたような痛みを
胸の奥に感じる。


…いいなぁ…羨ましい。
仕事も、恋愛も…結婚も…
何もかもがこれからの水城さん。
もし、過去に戻ってやり直せるなら、
水城さんのように…
神山さんみたいな人に恋してみたい…
そんなこと…絶対に叶わないのに…


「茜ちゃんっ‼」


神山さんと話終わった谷山さんが水城さんを呼ぶ。


「ごめんね、迷惑掛けて…ありがとう!」


そう言って頭を下げる。


「大丈夫!迷惑なんて思ってないから…
でも、遅刻は気を付けてね。皆、心配し
てたんだよ…」


「うん…ごめん。もうしない。
絶対にしない。…その…心配ってさ、
茜ちゃん…も…?」


「当たり前でしょ‼」


「そ、…そっか…」


水城さんの返答に心底嬉しいって顔をしている。
…分かりやすい。
谷山さんの仕事のフォローをしていたのが
水城さんで、それをちゃんと気付いて見ていた神山さん。
それが水城さんは、嬉しかったんだ…
好きな人が見ていてくれたら、
誰だって嬉しいよね…
学業と両立しているのに、
ただのバイトと甘んじていない…
回りをよく見て、その時最善の行動が出来る。
凄いな…神山さん。


神山さんのことを考えながら
ふたりのやり取りを黙って見ていた私に…


「あっ!俺、谷山 潤っていいます‼
教育大2年修二さんの後輩です。
宜しくお願いします‼」


隣にいた私に向け、谷山さんが自己紹介してくれる。


「初めまして、香坂 真琴です。宜しくお願
い致します」


そうして私達が挨拶を交わしたところを、見届けたオーナーが従業員に声を掛ける。


「それじゃ、今日も1日皆で頑張ろう‼」


心にくすぶりかけたものに、
気付かないふりをして、無理矢理蓋をする。


仕事に集中しなきゃ…


これ以上考えてはいけない。
考えて…導き出した答えに
向き合う勇気はないのだから──
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