GENERATIONS LOVE
日曜日の遊園地は、
さすがに、人で混み合っている。
何とか空いているベンチを見付け、そこへ向かう。
繋いでいた手を離し、ベンチに座るよう促す。


「真琴さん、ここに座って下さい。
俺、飲み物買って来るんで……
何が良いですか?」


こんな混雑した中で、精神的ダメージを受けた後に、
張り切ってアトラクションを……という気分にもならないだろう……夜は真琴さんの歓迎会があるし、無駄に体力削るより、一旦落ち着いた方が良いと思った。


「紅茶でお願いします」


「分かりました。
少し待っててくださいね」


すぐ近くにドリンクスタンドがあったので、そこで紅茶とアイスコーヒーを注文する。
待ってる間に、メールの着信音が鳴った。
誰のメールかは見当がついてるが……


『沙紀が腰抜けたので、
とりあえずふたりで楽しんで!
落ち着いたらまた、連絡する』


……本当に勝手な奴。
でも、まぁ……その間、真琴さんを独占出来るなら、良いか。


飲み物を買い、
真琴さんの待つ場所に戻る。
ベンチに座る真琴さんの、表情に……
足が止まる


また……あの悲しそうな顔。
真琴さんが見つめる先には、仲睦まじそうな家族がいる。
1、2歳くらいの子供の手を、両側から両親が繋いで歩いている。
真琴さんの心を縛るものが、
俺には分からない。
分からなくて、何も出来なくて、歯痒い。
そんな顔……してほしくないのに……


「真琴さん、お待たせしました」


俺の声に、はっとして振り向く。


「有難うございます」


真琴さんに紅茶を渡し、
俺もベンチに座る。


「木村からメールがあって、まだ合流出来
そうにないみたいです」


「……そう……ですか」


「真琴さん、沙紀さんから何か……?」


「……聞いてないです」


……血繋がってないと訊いていても驚いたんだから、知らなかったら尚更だよな。


「俺の口からは、どうかと思いますが……
ふたりは血の繋がりがないそうです。
俺も、ついさっき木村から訊いて……
ずっと沙紀さんを想っていたって……
詳しくは、沙紀さんから訊いて下さい」


俺の言葉を静かに訊いていた真琴さん。
何か、思うところがあるのかもしれない。


「そうだったんですね……
少し、安心しました。沙紀も、さっき
何か言いかけてて……
もしかしたら、一樹くんのことだっのか
もしれないですね」


少し、話題を変えた方が良いかな。


「そう言えば、今日真琴さんの歓迎会です
ね!アラカルトはご存じですか?」


「はい、総ちゃんのお店ですよね?」


大ちゃんの次は総ちゃんですか!?


「……修二くん?」


いきなり黙りこんだ俺を、見つめる。
森田さん繋がり、なんだとは思うけど。


「すいません。いきなり黙ってしまって。
今、嫉妬してました」


隠さず本音を言う。
だってもう、俺は真琴さんに想いを伝えているんだから……
その時感じた気持ちを、そのまま真琴さんに伝えていこう。


「……え……?」


「今だから明かしますけど、『大ちゃん』
と真琴さんが恋人同士だと勘違いして 、
落ち込んだりもしました。
もし、そうだったなら……俺は真琴さんに
想いを伝えることを諦めようと思ってい
ましたから」


「……叔父ですよ!年齢が近いから、あまり
そういうふうには、見えないかもしれま
せんが……私にとっては、兄のような存在
です。それから、総ちゃんは、大ちゃん
の高校生の頃からの友達で……
あの……どうして、笑ってるんですか?」


真琴さんが不思議そうに俺を見る。
真琴さんが説明してくれてる間、無意識に笑っていた。


「……一生懸命、説明してくれる真琴さんが
可愛くて ……あとは、嬉しくて、つい」


その言葉の後、真琴さんは俺から目を逸らす。


不快にさせてしまっただろうか?


「真琴さん、あの……」


謝ろうと口を開いた時、


「……そういうの、反則です」


小さな声で俯いたままそう言う。


「そんな優しい笑顔で、そんなこと言うの
ずるいです……」


「真琴さんだから……ですよ。
真琴さんにしか言いません」


俺が優しい顔してると言うなら、
それは真琴さんのせい。


真琴さんが顔を上げ、俺を真っ直ぐ見つめる。何か、決意を宿した目で……


「……修二くんに、訊いてほしいことがあり
ます。でも、今じゃなくて……歓迎会の後
時間作って貰えますか?」


「はい、分かりました。
ただ……無理、してませんか?」


俺の問いに、首を横に振る。


「……訊いてほしいんです。修二くんに」


きっと、それは真琴さんの心の重石。
それを聞くことで、俺の気持ちが変化すると、真琴さんは思ってるのかもしれない。
それを打ち明けることで、俺を遠ざけようとしてるのかもしれない。


でもね、真琴さん……
俺は変わらないよ。
何を訊いても、何を知っても──
変わらず、真琴さんを想っている。
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