GENERATIONS LOVE
【side 真琴】


ふと気付くと、さっきまで大ちゃんと話していた修二くんの姿がない。
室内を見渡しても、いなくて……


「大ちゃん、修二くんは?」


思わず大ちゃんに尋ねると、


「大ちゃんっ!?修二くんっ!?何で、ふたり
のこと名前呼びなんすかっ!?」


横から、
谷山さんに大声で叫ばれてしまった。


「俺、真琴の叔父なんだよね~」


にこにこ笑いながら、大ちゃんが答える。


「聞いてないっすよぉ‼」


「うん、言ってなかったね……それより、
俺は『修二くん』の方が気になるな~
昨日までは『神山さん』だったのにね』


純粋に疑問に思う谷山さんと違い、目の前でにこにこ笑ってるこの人は……身内なだけに、本当に質が悪い。ある程度、知ってるくせに。


「……名前で呼んでって……」


「へー」


「やるっすね、修二先輩」


何だか見透かされてるからか、いたたまれない。


「あんまり意地悪してたら、後で修二さん
に言い付けますよ‼それで、修二さんどこ
に居るんですか?」


小さくなっている私を、
助けてくれたのは水城さんだった。


「それは怖いから、もう止めるよ。
質問の答えはキッチンだよ。
君らふたりで、何か修二くんにお願いし
なかったかい?」


谷山さんと水城さんは、思い当たることがあるようで、
ふたりで顔を見合わせている。


「昨日お願いしたばかりなのに……」


ぽつりと、水城さんが呟く。


「修二くんは、有言実行型だからね。
賄いを作る機会を得るために、
今はテストを受けている最中。
そんなテストしなくたって、
修二くんなら作れるから、任せて問題な
いんだけど……
きっちり、筋を通すのが修二くんだから
ね。皆に確認してもらうべきだと思った
んだ。まぁ、後は通常最低1時間煮込む
ソースを、どう作るか……そこを俺は試し
たいかな……」

本当に楽しそうに、そう話す大ちゃん。
グラスのビールを飲み干し、


「総一朗がさ、結構本気で修二くん引き抜
きたがってるのが、やっかいでさ……」


大ちゃんのその言葉に、私を含めた皆が、
目を丸くする。


「どういうことですか?」


水城さんが身をのりだし、
大ちゃんに問う。


「前に、人手が足りないって時に、
総一朗に頼まれて、修二くんを何日か
ヘルプに出したら、かなり気に入ったら
しく、 その後から煩くてね……」


「でも、修二先輩は教職目指してるじゃな
いっすか?」


谷山さんの言葉に、
複雑な顔をする大ちゃん。


「俺が躊躇するのは、そこ……なんだ」


そこで前日の大ちゃんの台詞を思い出す。


『観察力と洞察力…加えて判断力…
ホール全体を見回しながら、その時々に
合わせて行動する。スタッフに指示を出
しなが 人一倍動く…
常に自分より、
他者に目を向ることが出来る…か…
最近は、
俺の味も再現出来るようになって、
キッチン側に居ても腕が立つ』


『大きいなぁ、修二くんの存在感。
手放すのが惜しいわ……』


「センスも才能も、実力も……
本当、申し分ないんだよね」


教職を目指してる修二くんの気持ちを
尊重したいのと、このままドルチェに留まらせたい気持ちで……大ちゃんは迷ってる。
昨日は冗談みたいに言ってたけど、
実は本気で悩んでるんだって、大ちゃんの様子を見ていて思った。
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