GENERATIONS LOVE
【side 修二】


真琴さんとは対照的な、表情の男性。
真琴さんを見つめる目は、優しい。
でも、ちゃんと見えているのだろうか?
全身で震え、顔色だって良くない。


「やり直すためだよ。ちゃんと、話し合え
ば、僕達はやり直せる」


一旦言葉を切った男性が、俺と真琴さんの繋いだ手に視線を向ける。
その視線を俺に向け、せせら笑いを浮かべる。
物腰の柔らかい雰囲気の、男性には似合わないその表情に、
──ムカッとする。


「……何を……言ってるの?本気で、
そんなことを思ってるの?」


信じられないものを見るような顔で、真琴さんは男性を見つめる。


「思っているよ。僕はあの頃と変わらず、
真琴を愛しているし、僕達は……」


「やめてっ‼もう、何も聞きたくないっ‼」


男性の言葉を遮るように、
真琴さんが叫ぶ。
呼吸は荒く、肩が上下している。


その真琴さんの様子に、
黙っているのが限界になった俺。


「お話し中、申し訳ありませんが……
真琴さん、体調が優れないんで、これで
失礼します」


割って入った俺に対し、露骨に顔を歪ませる男性。


「それなら、僕が送っていこう。
すぐそこに車があるから」


「結構です。見ず知らずの方に、
お願いする道理はないんで……」


男性の眉がぴくっと上がる。


「見ず知らず?僕と真琴は……」


今にも倒れそうな、真琴さん。
繋いだ手を離し、右肩を抱き……ぐっと身体を引き寄せ、俺にもたれるように体重を掛けさせる。


「俺が貴方を知らないんで……
そんな方に、俺の大切な真琴さんを任せ
られません。失礼します」


会釈をし、目の前に停まっていたタクシーに乗り込む。男性がじっとこちらを見ている気配を、背中に感じていた。


運転手に真琴さんの家の住所を伝える。
車内では、お互い沈黙のまま……
俺にもたれたままの、真琴さんの表情は見えない。
真琴さんと、あの人の関係……
多分……そうなんだろうな……
昨日、真琴さんは自分は俺に相応しくないと言った。
ただ、恋人と別れただけなら……そんな言葉は出ない。俺にだって、恋人と別れた経験はある。
恋人より、もっと近い関係……
そういうこと、なんだろう。


タクシーを降り、真琴さんの部屋のドアの前で向かい合う。


このまま真琴さんをひとりにするのは、心配……かと言って、こんな時間に女性の部屋に上がるのも……常識的にどうなんだ……と、
考えがまとまらない。


そんな中、先に沈黙を破ったのは真琴さん
だった。


「……修二くん……ごめんね……」


「……え?」


ごめんねって……どういう意味?


次の瞬間、俺の両腕を引っ張り、身体を反転させられる。真琴さんの部屋のドアに、背中が当たる。


思考が追い付かず、俺より力が弱いはずの真琴さんに、されるがまま……
そのまま、真琴さんは俺に抱きついた。
焦っている俺は、真琴さんの右手の動きに気付かなかった。


──カチャッ


音と共にドアが開く。
ドアに体重を掛けていたため、突然支えがなくなれば……


──ガタンッ‼


「……っ‼」


真琴さんを抱えたまま、背中を玄関の床に打ち付ける。


「ごめんねっ‼修二くん……
痛かったよね…ごめんなさいっ」


俺の足の間に座り込み、身体を離した真琴さんが、何度も謝る。


「……真琴さんは?真琴さんはどこか打って
ない?痛いとこない?」


「……え?……私は……大丈夫……」


ほっと胸を撫で下ろす。


「良かった」


真琴さんの目にじわっと涙が浮かぶ。


「……どうして?
……どうして、そんなに優しいの?
私の、せいで ……修二くん痛い思いしたの
に……」


真琴さんの目尻に、手を伸ばす。
溢れた涙を指で拭う。


「大丈夫ですよ。咄嗟に受け身取ったん
で。だから、泣かないで……
それより、どうしてこんな無茶なことし
たんですか?」


「……修二くんに、帰ってほしくなかったか
ら……」


……もしかしたら、自分だって怪我する可能性だってあったのに、
あまりに大胆な行動をとった真琴さんを、
やっぱり俺は可愛いと思ってしまう。


「……修二くんに、ちゃんと、全部話したい
の……明日まで……待てそうになくて……
我儘ばかりで、ごめんなさい」


「分かりました。とりあえず……ここから
動きましょうか?」


床から立ち上がり、真琴さんの後に続く。
部屋の中は、綺麗に整頓されていてる。
女性らしい、甘い香りがする部屋。


「ここに座って……少し、待ってて下さい」


真琴さんが指すソファに腰を下ろす。
真琴さんの生活する空間に、自分が居るのが……素直に嬉しい。
本当は……喜んでる場合ではないのだが……


「お待たせしました」


マグカップをトレイにのせ、テーブルの上に置く。
カップを手渡され、


「いただきます」


真琴さんの淹れてれたのは、少し甘めの
カフェオレ。
優しい味がする。


「美味しいです」


俺の言葉に、


「良かったです」


そう言った真琴さんの顔は、
憂い顔のまま……


「……さっき、会ったあの人は……2年前まで
私の……旦那だった人です」


真琴さんの口から、さっき考えたことが
伝えられる。


「聞いて……楽しい話ではありません。
でも、全部知ってほしいの……
聞いて、くれますか?」


「はい」


俺は静かに頷いた。
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