それはきっと、君に恋をする奇跡。
プロローグ
白く無機質な空間。
鼻につくのは、嗅ぎ慣れた薬品のにおい。
「お願いが……あるんだ」
掠れた声が、静かに落ちた。
「……なに?」
それに答える声も同じように掠れていた。
"お願い"を口にしたキミは。
「……ごめん……こんなこと頼んで」
申し訳なさそうにうつむく。
「ううん」
そんな顔をしないでほしい。
キミのためならなんだってするから。
強く首を横に振ると、キミは穏やかな目を見せたあと真っ直ぐに顔をあげた。
「でも、これだけは約束して……」
久しぶりに見る真剣な瞳にドキッとしつつ、なにを言われるんだろうとその口元を見つめた。
「……ん?」
「……もし……もしもの話だけど───」
この先に続いたもしもの話。
それが本当になるなんて、
このときは夢にも思わなかった……。
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