それはきっと、君に恋をする奇跡。
『大切にしたい人がいるんだ』
蘇る蒼の言葉。
蒼を見上げながら優しく微笑んでいる女の人。
その人が、蒼の大切にしたい人……?
「……」
蒼が横を向いている間に自転車で通り過ぎれば、きっと気づかれずにここをやり過ごせる。
よし、行こう。
あたしは勢いよくペダルを漕いだ。
うつむきながら、蒼の横を走り抜けようとした瞬間。
「陽菜っ!?」
すれ違いざまにそう声を掛けられて。
キィィィーーーーッ。
あたしは反射的にブレーキを握っていた。
少し錆びついた音と共に止まるタイヤ。
観念して振り返ると。
「お、やっぱ陽菜じゃん!」
そう言って、夏の太陽にも負けないような明るい笑顔を向ける蒼がいた。