それはきっと、君に恋をする奇跡。
……声までかわいい。
彼女は行く先を指さし、軽く微笑むと歩き出した。
「あ、菜々さん待って、俺も行く」
すると、蒼は慌てたように声を掛けて。
「じゃ、陽菜また新学期に。気を付けて帰れよ」
あたしに軽く手をあげると、彼女の背中を小走りで追いかけていく。
……あ。
あっという間に、蒼はあたしの前から消えてしまった。
彼女の一言で。
取り残されたあたしは、その場に呆然と立ち尽くす。
蒼のブカブカの帽子のせいで、狭くなった視界。
そこからでもハッキリ見える2人並んだその背中を見つめるあたしの胸は、ギュと押しつぶされそうだった。
『蒼くん』『菜々さん』
呼び合う感じからして、彼女は年上なのかもしれない。
蒼が一方的に彼女に好意を抱いているだけで、彼女はそうじゃない……?