それはきっと、君に恋をする奇跡。


……やっぱりあたしがあげたのはつけてないか。


『つける』なんて言いながら、そんなことも忘れちゃったのかな。


……期待してないからいいんだけど。



「それは良かった。健康第一!」



ニッと笑う蒼は、焼けてないくせに健康的な笑顔を見せてくる。


……やっぱりその笑顔を見せられると、あたしも自然に笑顔が戻ってく
る。



「あの、これありがとう」



あの日借りた黒いキャップを渡す。


このキャップのおかげで、帰りは随分涼しかった。



「おう、別に返さなくてもよかったんだけど」


「そういうわけにはいかないでしょ」



今日は、隣に菜々さんはいない。


この笑顔はあたしだけに向けられている。


そう思えば心が満たされていく。


蒼の笑顔は、あたしの心のよりどころだから……。
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