それはきっと、君に恋をする奇跡。



「えー、これをここに代入して……」



授業の内容なんて全然頭に入って来ない。


視界の端っこに映る、蒼が気になりすぎて。


湿布が貼られているのは左のひとさし指から手首に掛けて。


不運なことに利き手だ。



……シャーペン、持ちにくそうだな。


骨折じゃなくても、この状況ならノートを取るのも一苦労なはず。


文字を書くにもうまくいかないみたいで。


そのたびに消す消しゴムの振動が、隣あった机から何度も伝わってくる。



"ノートはあたしがとっておくよ"



何度も心の中で唱えてるくせに……声に乗せられない。


……。



勇気を出して、一言掛ければいいだけなのに。


それが、蒼とまた前みたいな関係に戻れるきっかけかもしれないのに。



それすら出来ないあたしはやっぱり臆病だ。
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