それはきっと、君に恋をする奇跡。
「おまえは、ええと……水瀬か」
貫録のあるでっぷりとした担任が、座席表を見ながら問いかける。
「はいっ!三橋(ミハシ)中から来た水瀬蒼でーす。気軽に蒼って呼んで下さい。特技は喋ることと人を巻き込むことでーす」
彼は立ち上がると、勝手に自己紹介を始めた。
「おいおい水瀬、とりあえず座れ。自己紹介は入学式のあとにたっぷり時間をやるから」
なだめるような担任の言葉に、クラスがどっと沸く。
「なんだよアイツ、おもしれーな」
「だな」
「あの人カッコよくない?」
「ねっ」
知らない子たちが集まったこの教室が一体となる。
彼の言葉が会話の糸口になったみたい。
みんな笑顔で誰にともなく会話をはじめた。
……人を巻き込むって、早速実行してるし。
それが自慢できることなのか不明だけど、こういうときには長所として発揮するのかもしれない。
べつに……あたしには関係ないけど。
知らない子同士の会話になるきっかけを利用することもなく、あたしはそのまままた机に突っ伏した。