それはきっと、君に恋をする奇跡。


奇しくも屋上という場所で置かれているこの不思議な状況に、忘れ去りたかった光景が蘇る。


告白を、遮られたーーーという記憶が。



蒼が繰り返しごめんと口にするのは、そのこと……?



「全然……気にしてないよ……」



そう言ったらウソになるけど。


もしかして蒼は気に病んでたの?



「……俺はっ……俺は……ほんとに……ズルいんだ……」



えっ……?



「俺は……ズルい男なんだよっ、」


「……」


「ごめんっ……」



顔も上げずに繰り返す"ごめん"。


その声は次第に揺れて、それがなにを意味しているかが分かり、胸がぎゅっと押しつぶされそうになる。



……聞いたこともない、蒼の涙声。


蒼が、泣いている……。



笑顔の蒼しか知らないあたしにとって、今腕の中にいる蒼はまったくの別人のようで。


……ほんとにどうしたの、蒼……。



「……俺が……弱いっ……から……」


「…………蒼」

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