それはきっと、君に恋をする奇跡。
勝手に持ち出したことも咎めず。
破けたことも全く気にもせず。
原稿用紙を持ってここから去ろうとする蒼。
「待って蒼!」
その背中に呼びかける。
「これ、ほんとに蒼が書いたの?」
「……そうだよ」
振り返った蒼は真顔。
少しも表情を作らないのは、なにかを悟られないための努力な気がして余計に不安を煽る。
「あたし……この字を書く人を、もうひとり知ってるの……」
「……」
「この字を書くのはね…………ハルくんなの……」
「……しらねえよ……」
優しい蒼が、普段しないぶっきら棒な態度をとる。
「どうして蒼が、ハルくんと同じ字を書くの?」
「だから知らねえよ!似た筆跡なんていくらでもあるだろっ!」
「……っ」
はじめて聞く蒼の怒鳴り声。
思わず萎縮して、ビクッと肩をあげる。