それはきっと、君に恋をする奇跡。
今後は緩和ケアといい、少しでも楽に最期の時を迎えられるように精神的な苦痛をやわらげるためのケアに移る。
医師は遥輝に、専門の病院に移ることを勧めた。
だが、遥輝は拒んだ。
「ここに居させてください」
遥輝はこの病院に残りたいと言った。
……それは。
病室から見える桜園高校。
少しでも、陽菜の側に。
最後まで陽菜の側に。
そんな遥輝の想いに、涙があふれた。
「なあ遥輝……陽菜に言おう?」
今更。
ほんとに今更だけど。
会えるのと会えないのでは、随分ちがうと思ったんだ。
「陽菜を連れてきたら絶交だからな」
その話をすると遥輝はいつも怒った。
「俺はどこかで野球を頑張ってる。陽菜の過去の思い出に、そんな俺がいれば俺は幸せだから……」
穏やかにそう話す遥輝に、やっぱり俺はそれ以上なにも言えなかった。
「なあ、蒼?」
「……ん?」
「もう一度だけ……一緒に……泣いてくれないか……?」
「……っ」
「そうしたら、俺に残された時間、思いっきり自分らしく過ごせそうな気がするんだ」
……遥輝……っ。
遥輝の手を握って、体を強く抱き寄せた。
「……ああっ……」
俺達はいつかのように、声をあげて大声で泣いた。
その日を最後に、遥輝は一切涙を見せることはなかった。
陽菜の手紙を読み返して、陽菜の写真を見て。
遥輝らしく、したいことを自由に。
この3年間で、一番遥輝が遥輝らしく過ごした時間だった。