それはきっと、君に恋をする奇跡。


フェンスにもたれるようにして地面に座り込む。

だんだんと意識が朦朧としてくる中、



「蒼っ……」



陽菜の声が聞こえた気がした。


幻覚か……?

そう思いながらも、見えたその腕を無意識に掴んでしまった。



「……今だけ……今だけ……このままで……いさせて……」



ギュッと、その体を抱きしめると温もりが伝わってきた。



幻覚じゃねえ。

ほんとに陽菜はここにいるんだな……。



なあ、陽菜。

どうしたらいい……?



陽菜だって、遥輝に会いたいだろ……?



「悪い……もう少しだけ、このままで……」



ああ。

俺はなんてズルい男なんだ。


遥輝を口実に、陽菜に甘えようとしている。

陽菜は遥輝のものなのに。


色んな想いがごちゃ混ぜになって、この時だけは自制心を失っていた。


陽菜を抱きしめ、弱さを口にする。



「ごめんっ……」



遥輝へ。



「ごめんっ……」



陽菜へ。



「俺、も、どうしたら……」



───その後のことは、全く記憶にない。

< 350 / 392 >

この作品をシェア

pagetop