それはきっと、君に恋をする奇跡。
フェンスにもたれるようにして地面に座り込む。
だんだんと意識が朦朧としてくる中、
「蒼っ……」
陽菜の声が聞こえた気がした。
幻覚か……?
そう思いながらも、見えたその腕を無意識に掴んでしまった。
「……今だけ……今だけ……このままで……いさせて……」
ギュッと、その体を抱きしめると温もりが伝わってきた。
幻覚じゃねえ。
ほんとに陽菜はここにいるんだな……。
なあ、陽菜。
どうしたらいい……?
陽菜だって、遥輝に会いたいだろ……?
「悪い……もう少しだけ、このままで……」
ああ。
俺はなんてズルい男なんだ。
遥輝を口実に、陽菜に甘えようとしている。
陽菜は遥輝のものなのに。
色んな想いがごちゃ混ぜになって、この時だけは自制心を失っていた。
陽菜を抱きしめ、弱さを口にする。
「ごめんっ……」
遥輝へ。
「ごめんっ……」
陽菜へ。
「俺、も、どうしたら……」
───その後のことは、全く記憶にない。