【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

降り注ぐ王の愛 ~癒しの力~

赤子を右腕に抱いたキュリオは自室のバルコニーから悠久の大地を見下ろす。月の光に導かれるように視線をさらに遠くへ移動していくと飛び込んできたのは、民たちの活気ある生活の灯びと、神秘的な淡い輝きを放つ聖獣の森だった。

「今夜も変わりないな」

空いた左手を胸の高さまで持ってくると、目を閉じたキュリオの手元へ無数の光が一瞬にして集まる。やがてそれがひとつの塊になると、勢いよく上空を目指し高度をあげた。
それを目の前で見ていたアオイは興奮したような声をあげ、瞳を輝かせながら行方を見守っている。しかし、夜空へと舞い上がった光の粒子はすでに浮かんでいる星の一部となって――

「……?」

見えなくなってしまった光の群れにアオイの声は止み、愛くるしい彼女の瞳はキュリオへと戻ってきた。まるで"どこへ行ってしまったの?"と言わんばかりの戸惑いの表情にキュリオが答える。

「まだだよ。見ててごらん」

ふふっと笑ったキュリオの顔がみるみる輝きに包まれていく。驚いたアオイが顔を近づけるが、それは自分も同じだということに気づく。彼のバスローブを掴む己の手も輝いており、それがどこから齎されるものかと辺りを見渡す。

やがて小さな瞳が悠久の大地へ向けられると、数多の流れ星の如く上空から降り注いだ光が波紋さながらに広がっていくのが見えた。そしてそれは不思議なことに人の集まる場所へ集中し、銀の湖が水面を揺らすような優しい輝きに包まれていた。
その心ごと抱きしめるようなあたたかな光は#正__まさ__#にキュリオそのもので、人の愛を知らずに生まれたアオイは悲しみを隠して目を細めた――。

銀色に染まる大地と、王の愛に包まれたアオイは安心したようにキュリオの胸にそっと顔を埋める。ゆっくり閉じられていく彼女の瞼を見つめながらキュリオが彼女の頭を優しく撫でた。先ほど傷ついたアオイの指先に光は留まっておらず、傷跡も残っていない。

 日々大きくなる赤子への愛を心地良く感じながら、規則正しく繰り返される寝息に合わせるように彼の手がアオイの背を撫でる。やがて光がおさまっていくのを見届けたキュリオは室内へ戻り、音を立てぬようガラスの扉を閉めていく。

いつものキュリオならば眠るまでかなりの時間があった。しかし、彼女と寝起きを共にすると決めたからにはこちらの都合を優先させるという選択肢は彼にはない。そっと天蓋のベッドへ近づき、小さな体を抱いたままゆっくり体を横たえる。
 
――その時、ピクリと動いた彼女の体と眉。

(……夢でも見ているのかな?)

まだ眠気が襲ってこないキュリオは楽しそうにアオイの顔を見つめている。すると、時折悲しそうに表情を歪める彼女。

(なぜそんな顔を……)


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