【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
"……きっと……"
"あの人が悲しんでいる……"
(「お前は私の娘だ。血の繋がりなど関係ないさ」
「"愛しい"という言葉はお前のためにあるような言葉だね」)
この世に生まれ出て間もない彼女の記憶には、いつも笑いかけ優しい口づけを落としてくれた銀髪の彼の姿が鮮明に焼き付いていた。
"……彼を悲しませたくないっ……"
幼子の切ない想いが、抜け殻にも似た少女の瞳から涙となって流れ落ちる。
『なぜ同化した』
"…………"
返答に困っているのか悩んでいるのか、幼子からの返事はない。
『我の夢に入り込んだこの闇を消し去る権利は我にある。好きにさせてもらうぞ』
スッと細められた青年の切れ長の瞳。
抱き起こした少女の体を一度横たえると静かに立ちあがった。
一呼吸置くことなく目を閉じた彼の前に音を立てた空間が捻じれ曲がり……
巨大な光の柱より姿を現したのは類を見ぬほどに神々しい金色に輝く弓と矢だった――
それはゆっくり彼の手におさまると、より一層輝きを増していく。
『幼子よ……そなたは元の在るべき場所へ帰れ』
『……そして娘。二度と会うことはないだろう』
一瞬振り返り、そう言い残した彼の瞳は美しい翡翠の色を宿している。
流れるような動作で弓を引く青年。すると風が激しく巻き起こり、金色の長い髪が美しくなびいた。
"……ありがとう……"
幼い声が控えめに響く。
『…………』
限界までに張りつめた弦がギリギリと音を立て、凝縮された光の粒子が炎のようにみなぎっている。
まさしくそれは圧倒的力で闇を凌駕する光の咆哮だった。
研ぎ澄まされた彼の鋭い眼光が狙いを定めた次の瞬間、光に包まれた一矢が暗闇の中心を貫いた――
――ゴォォォオッッ!!!!!
放たれた矢がひく光の尾が凝縮された神なる力であるかのように、少女を取り巻く果てしない暗闇が抗うこともできず出現した光の竜巻へ轟音と共に吸収され、消滅していく――
――やがてその圧倒的な力の前に空間までもが歪み始め――
"……ありがとう、ほんとうに……ありがとうっ……"
涙交じりの幼い声が青年の耳をかすめ、少女の気配と共に光の中に溶け込んでいった。
『…………』
しばらくののちに光は消え去り、見慣れた美しい風景が姿を取り戻している。無言のまま二人を見送った青年の手中から、役目を果たした金色に輝く弓がいつの間にか消え去っている。
なにごともなく立ち去ろうとする彼は背にある翼を広げると音もなく飛び立っていく。
そしてその足元には金色の羽が湖面をゆらしていた――。
"あの人が悲しんでいる……"
(「お前は私の娘だ。血の繋がりなど関係ないさ」
「"愛しい"という言葉はお前のためにあるような言葉だね」)
この世に生まれ出て間もない彼女の記憶には、いつも笑いかけ優しい口づけを落としてくれた銀髪の彼の姿が鮮明に焼き付いていた。
"……彼を悲しませたくないっ……"
幼子の切ない想いが、抜け殻にも似た少女の瞳から涙となって流れ落ちる。
『なぜ同化した』
"…………"
返答に困っているのか悩んでいるのか、幼子からの返事はない。
『我の夢に入り込んだこの闇を消し去る権利は我にある。好きにさせてもらうぞ』
スッと細められた青年の切れ長の瞳。
抱き起こした少女の体を一度横たえると静かに立ちあがった。
一呼吸置くことなく目を閉じた彼の前に音を立てた空間が捻じれ曲がり……
巨大な光の柱より姿を現したのは類を見ぬほどに神々しい金色に輝く弓と矢だった――
それはゆっくり彼の手におさまると、より一層輝きを増していく。
『幼子よ……そなたは元の在るべき場所へ帰れ』
『……そして娘。二度と会うことはないだろう』
一瞬振り返り、そう言い残した彼の瞳は美しい翡翠の色を宿している。
流れるような動作で弓を引く青年。すると風が激しく巻き起こり、金色の長い髪が美しくなびいた。
"……ありがとう……"
幼い声が控えめに響く。
『…………』
限界までに張りつめた弦がギリギリと音を立て、凝縮された光の粒子が炎のようにみなぎっている。
まさしくそれは圧倒的力で闇を凌駕する光の咆哮だった。
研ぎ澄まされた彼の鋭い眼光が狙いを定めた次の瞬間、光に包まれた一矢が暗闇の中心を貫いた――
――ゴォォォオッッ!!!!!
放たれた矢がひく光の尾が凝縮された神なる力であるかのように、少女を取り巻く果てしない暗闇が抗うこともできず出現した光の竜巻へ轟音と共に吸収され、消滅していく――
――やがてその圧倒的な力の前に空間までもが歪み始め――
"……ありがとう、ほんとうに……ありがとうっ……"
涙交じりの幼い声が青年の耳をかすめ、少女の気配と共に光の中に溶け込んでいった。
『…………』
しばらくののちに光は消え去り、見慣れた美しい風景が姿を取り戻している。無言のまま二人を見送った青年の手中から、役目を果たした金色に輝く弓がいつの間にか消え去っている。
なにごともなく立ち去ろうとする彼は背にある翼を広げると音もなく飛び立っていく。
そしてその足元には金色の羽が湖面をゆらしていた――。