【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
上位精霊・イフリート
精霊の国で放たれたキュリオの巨大な力。
そして悪い予感は的中してしまう。
好戦的な炎の精霊たちが我先に門へと集まり始めたのだ。
この時、門の外にたどり着いたガーラントと従者たちは迫りくる異様な力に身を構える。
「ガーラント様……この気配はまさかっ……」
「お主らは下がっておれ」
覚悟を決めたように重く口を開いたガーラントは従者を下がらせ前に進み出る。
その数はひとつやふたつではない。明らかな殺意を抱いた無数の気配がどんどん近づいてくる。
『門からお離れなさい』
突如響いた女性の声。
その声に敵意はないが、深い緊張の色がみてとれる。
「……どなたか知らぬが、我等はキュリオ様の家臣。主(あるじ)を置いてここを離れるわけにはいかんのですじゃ」
『だからこそです。……悠久の王の負担になりたくなければ言う通りに』
「……何か深い事情があるようですな……」
恐らく事情を知っているであろう内側の声に従うことが正しいと判断したガーラントは後方にいる従者たちに目配せすると門から少しずつ離れていく。
『…………』
光の精霊は門から離れていく人の気配に一安心すると、速度をあげてここを目指す炎の精霊たちへと意識を集中させた。
ほどなくして至るところから湧いて出た灼熱の精霊たち。
そして不機嫌な声が次々に光の精霊へと降りかかる。
『……まさかアンタ門番のつもり?』
『悠久の犬にでも成り下がったわけ……?』
燃えさかる炎の塊が光の精霊を翻弄するように彼女の目の前をかすめていく。
『……悠久の王は我らが精霊王の御友人……』
『今宵はやむを得ぬ事情あってここで力を解放された』
短い言葉にも関わらず彼女の発言には説得力があった。そして最初からほとんどの精霊はわかっている。
なぜなら、発せられた悠久の王の輝きには敵意がまったく感じられなかったからである。
『…………』
無言が続くなか、ひとつの煮えたぎったマグマのように巨大な劫火の塊が前に進み出た。
『……イフリート……』
光の精霊にわずかな動揺がみられる。
イフリートと呼ばれた彼は気性が荒く、精霊の中でも右に出る者がいないほどに強い。精霊が同志を滅ぼすことは滅多にないが、それを彼は頻繁にやってのけるため、注意が必要なのだ。
『光の精霊よ……滅されたくなくば門を開け』
彼がそこにいるだけで後ずさりしてしまいそうな程に威圧感がある。
だが、彼女は怯むわけにはいかない。
『笑止。我が王の意志に非ず』
『…………』
あくまで微動だにしない光の精霊に、イフリートは徐々に苛立ちをつのらせていく。
『悠久に恨みはない。ただ……あれを口実にひとつの国を火の海にしてみたいだけさ』
グツグツとマグマを滾らせたような気味の悪い笑みを浮かべるイフリートは、破壊的で危険な思想の持ち主であることがいまさらに明らかになる。
『言ってる意味がわかるか?』
『要するに……』
『お前みたいなやつは……邪魔だっつってっンっだよっ!!!』
『……っ!!』
ついに本性を剥き出しにしたイフリートの劫火が光の精霊に襲いかかろうとした瞬間――
上位精霊は彼女の目前で動きを止めた。だが、動きを止めたのではない。動けないのだ。
『……ま、ま……さか……っ……』
ただならぬ殺気にそれまでの勢いを失い、すっかり震えあがり口がまわらぬ上位精霊・イフリート。
先頭に立つイフリートの異変に気づいた精霊たちは、どこからともなく降り注ぐ金色の光を目で追うようにゆっくり上空を見上げる。
『……ッヒィ……ッ……!!』
――そこでは黄金の弓矢を極限まで引いた精霊王・エクシスがイフリートへと狙いを定めていたのだった――。
そして悪い予感は的中してしまう。
好戦的な炎の精霊たちが我先に門へと集まり始めたのだ。
この時、門の外にたどり着いたガーラントと従者たちは迫りくる異様な力に身を構える。
「ガーラント様……この気配はまさかっ……」
「お主らは下がっておれ」
覚悟を決めたように重く口を開いたガーラントは従者を下がらせ前に進み出る。
その数はひとつやふたつではない。明らかな殺意を抱いた無数の気配がどんどん近づいてくる。
『門からお離れなさい』
突如響いた女性の声。
その声に敵意はないが、深い緊張の色がみてとれる。
「……どなたか知らぬが、我等はキュリオ様の家臣。主(あるじ)を置いてここを離れるわけにはいかんのですじゃ」
『だからこそです。……悠久の王の負担になりたくなければ言う通りに』
「……何か深い事情があるようですな……」
恐らく事情を知っているであろう内側の声に従うことが正しいと判断したガーラントは後方にいる従者たちに目配せすると門から少しずつ離れていく。
『…………』
光の精霊は門から離れていく人の気配に一安心すると、速度をあげてここを目指す炎の精霊たちへと意識を集中させた。
ほどなくして至るところから湧いて出た灼熱の精霊たち。
そして不機嫌な声が次々に光の精霊へと降りかかる。
『……まさかアンタ門番のつもり?』
『悠久の犬にでも成り下がったわけ……?』
燃えさかる炎の塊が光の精霊を翻弄するように彼女の目の前をかすめていく。
『……悠久の王は我らが精霊王の御友人……』
『今宵はやむを得ぬ事情あってここで力を解放された』
短い言葉にも関わらず彼女の発言には説得力があった。そして最初からほとんどの精霊はわかっている。
なぜなら、発せられた悠久の王の輝きには敵意がまったく感じられなかったからである。
『…………』
無言が続くなか、ひとつの煮えたぎったマグマのように巨大な劫火の塊が前に進み出た。
『……イフリート……』
光の精霊にわずかな動揺がみられる。
イフリートと呼ばれた彼は気性が荒く、精霊の中でも右に出る者がいないほどに強い。精霊が同志を滅ぼすことは滅多にないが、それを彼は頻繁にやってのけるため、注意が必要なのだ。
『光の精霊よ……滅されたくなくば門を開け』
彼がそこにいるだけで後ずさりしてしまいそうな程に威圧感がある。
だが、彼女は怯むわけにはいかない。
『笑止。我が王の意志に非ず』
『…………』
あくまで微動だにしない光の精霊に、イフリートは徐々に苛立ちをつのらせていく。
『悠久に恨みはない。ただ……あれを口実にひとつの国を火の海にしてみたいだけさ』
グツグツとマグマを滾らせたような気味の悪い笑みを浮かべるイフリートは、破壊的で危険な思想の持ち主であることがいまさらに明らかになる。
『言ってる意味がわかるか?』
『要するに……』
『お前みたいなやつは……邪魔だっつってっンっだよっ!!!』
『……っ!!』
ついに本性を剥き出しにしたイフリートの劫火が光の精霊に襲いかかろうとした瞬間――
上位精霊は彼女の目前で動きを止めた。だが、動きを止めたのではない。動けないのだ。
『……ま、ま……さか……っ……』
ただならぬ殺気にそれまでの勢いを失い、すっかり震えあがり口がまわらぬ上位精霊・イフリート。
先頭に立つイフリートの異変に気づいた精霊たちは、どこからともなく降り注ぐ金色の光を目で追うようにゆっくり上空を見上げる。
『……ッヒィ……ッ……!!』
――そこでは黄金の弓矢を極限まで引いた精霊王・エクシスがイフリートへと狙いを定めていたのだった――。