【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
 ある者は呼吸するのも忘れ……またある者は完全に動きを止めてしまった。

「おぉ! これはこれは!! キュリオ様っっ!!」

ただ一人、ジルと呼ばれた威勢のよい老人だけが嬉しそうに彼の元へと駆け寄っていく。

「……キュリオ様……このお方が……っ……」

「我が国の王……キュリオ様だっ……!」

「このお方が……」

 ジル以外の人間は我も忘れ恍惚の眼差しで銀髪の王を見つめている。透ける陶器のような肌に、宝石よりも美しい青い瞳。そして隙のない品のある立ち振る舞いは、まさしく王になるべくして生まれてきた者……唯一無二、完全無欠のキュリオ王だった。

 動きを止めたまま自分を食い入るように見つめている料理人たちに目を向けたキュリオは、すまなそうに声のトーンを落とした。

「……邪魔してしまったかな?」

「いえいえっ! 邪魔だなんて滅相もございません! どうぞごゆっくり!!」

 ジルという名の白髪に大柄の男はよほど嬉しかったのかいつにも増して声を大にし、またガハハと笑った。そしてひとしきり笑うと老人はふと我に返り、キュリオに声をかける。

「キュリオ様、もしや朝食のリクエストでしたかな?」

 それを聞いた見習いとおぼしき若い男が急いで紙と羽ペンを用意し小走りに駆け寄ってきた。

「すまない……気を遣わせてしまったな、違うんだ。温めたミルクを少し分けて欲しくてね」

 よほど意外だったのだろう。その場にいた全員が王の思わぬ発言に目を丸くしている。

「ミルクを……?」

 ポカンとしているジルにキュリオは頷き答えた。

「あぁ、ティーカップにではなく……できれば小さなボトルのようなものに入れて欲しいのだが……」

 更に付け加えられた言葉を聞いて、にわかに周りがざわつき始めた。
 この大国の王がボトルにミルクを入れて飲むような習慣があるなどとは聞いたことがなく、上品な彼の嗜好は香りのよい茶葉やワインだったはずだ。

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