【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

<革命の王>エデンと悲しき光の花

――エデンは雷鳴轟く暗がりの空を見上げながら白銀の鎧の金属を響かせ岩山を切り開いた頂きを歩いている。

数時間前、悠久から戻った彼は己の国を見回り、何事も起きていないことを確認するとようやく王宮へと足を向ける。
この国の者は比較的体が頑丈で、恵まれた体格の男が多い。そして彼らの寿命は普通の人間よりもやや長いのが特徴だった。

 初代の王が立つ前のこの国はひどく荒れ、各地で争いが絶えなかったと聞く。
この大地に生まれた民は恵まれた肉体を武器に己の強さを権力として誇示したため、地獄絵図のような光景が数百年に渡って続いたという。

しかしあるとき、平和と秩序を愛したひとりの青年が立ち上がり、無益な争いに終止符をつけるべく話し合いで理解を得ようと尽力した。――が、数十年にも及ぶ青年の努力は実らず、話し合いによる解決など不可能だったのだと満身創痍の彼は身を以て思い知ることとなる。絶望のあまり表舞台から消えた彼が再び姿を現した際、彼の手には神々しく輝く神槍が握られており、桁外れの力による制圧を成し遂げる。それは#何人__なんぴと__#たりとも近づけぬほどの圧倒的力で、争いの絶えなかったこの国の民を一瞬で跪かせたほどの破壊力を持っていた。

そこからその青年を王として統制が図られ、現在のような規律正しい雷の国となったのだ。もしかしたら<革命の王>という二つ名はそれが由来なのかもしれない。

 一際鋭き切り立った巨大な崖の上に彼の王宮はあった。重厚な門が開かれると、主を待っていたのは数十人の鎧をまとった戦士たちだった。

「エデン様のお帰りだ!」

ひとりの戦士がそう叫ぶと、王宮を灯す明かりが一斉に広がっていく。

「おかえりなさいませエデン様!!」

一糸乱れぬ動作で彼を迎い入れ、さらに奥の扉が開かれると待ち受けていたのは彼に長く仕えるひとりの大臣だった。

「エデン様、おかえりなさいませ」

彼は鎧こそ纏っておらぬが、腰はやや曲がっていてもやはり長身で大柄な男だった。エデン不在時には彼が代わりを務めるため、キュリオへの書簡を綴ったのもこの大臣だった。

「留守中ご苦労だったな。書簡の件でキュリオ殿も感謝していたぞ」

「滅相もございません。キュリオ様の書簡がこちらにございますが、お目通しになられますか?」

「その件はキュリオ殿から解決したと聞いたが、貰っておこう」

エデンは彼が差し出してきた封筒を受け取るが、目を通さず懐へしまった。

そしてそのままの足取りで広間の奥へとすすむと、食事の用意を始めた家臣たちが恭しく一礼する。エデンは白銀の鎧を脱ぎ、差し出された上着に袖を通すと座り慣れた彼専用の椅子へと腰を落ち着けた。

「エデン様……姫様のご様子はいかがでした?」

ワインを注ぎにきた一人の男が心配そうに話しかけてきた。彼の様子からするに”姫様”の存在は家臣にも知れている存在であろうことがわかる。

「…………」

エデンは何もしゃべらない。その沈黙から良い状態ではないことは一目瞭然だった。

「……っも、申し訳ございません……」

察した男は申し訳なさそうに頭を下げ、奥へと消えて行く。
エデンは注がれたワインに目を向けると皮肉めいた口調で呟いた。

「なにが<革命の王>だ……」

「ひとりの女の運命も変えられないこの俺が……」

代々受け継がれていく二つ名は、初代の王が成し得た偉業やその能力に大きく関係している。その後に続く王たちは初代の志を胸に国を守ろうと奮闘するが、真の”革命の力”を得られたのは初代の王と、千年王となった極わずかな王だけだと聞く。 

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