【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
まずはじめに厨房へ立ち寄り、あたためたミルクを小さめのボトルに入れて持ち出した。しっかり蓋をして布で包み、アオイがそれで暖をとれるよう彼女の体の上でキュリオがボトルを支える。
「寒くないかい?」
「きゃぁっ」
差し出されたそれがミルクとわかったアオイは嬉しそうに声をあげ、欲するように彼の手ごとペタペタと触り始めている。
「適温になるまでもう少し待っておくれ」
幸せそうに微笑みながらキュリオは庭の端にある果実の木を目指して歩く。
庭へ出たふたりの頬を爽やかな風が手をこまねくように誘う。ゆるやかに靡いた銀の髪が自ら光を発するように輝くと、足元に広がる花々が眠りから覚めたように次々と蕾を花開かせてゆく。
やがて水蜜桃の木の下にたどり着いたキュリオとアオイ。瑞々しく甘やかな香りが辺りに漂い、それが頭上になる宝石のような果実の仕業だと小さいアオイが理解するまでには少し時間がかかった。
「そろそろ熟れてきただろうか」
「……?」
キュリオの呟きにアオイが顔を上げると、すぐそこには可愛らしい桃色の実が砂糖菓子よりも甘くとろけるような香りを放ち、その身を魅惑的に重そうに揺らしている。その様子をじっと見つめていた赤子は初めて目にする果実に好奇心をくすぐられ、口角をあげながらキラキラと瞳を輝かせている。
「そうだ。朝食に出してもらおうか? とても柔らかい果実だからアオイも食べられるはずだ」
腕の中のアオイに視線を下げ、ふふっと笑ったキュリオは頭上にある熟れた実をひとつ手中へおさめる。
この果実は女性の美しさ・招福・長寿などの意味を持っており、縁起の良いものとして知られている。彼女を愛してやまないキュリオとしては、是非ともアオイに食してもらいたいのだ。
――こうして二人は水蜜桃の木の下で穏やかな時間を過ごし、頃合いになったであろうミルクボトルを傾けながら静かな朝の庭園を楽しんでいた。
しかし、それは突如……けたたましい声によって破られ――
「な、なりません!! 五の女神様っ! この庭はキュリオ王のものですぞっっ!!」
やや年老いた男の声が静かな庭園に響いた。
「…………」
(……なにごとだ?)
不機嫌さを含んだキュリオの眼差しが声のしたほうへと向けられると、先ほどとは別の人物の声が港に着いたことを知らせる船の汽笛のように空気を震わせて耳に届く。
「今日くらいいいじゃない! 私の誕生日なんだからっ!!」
ガサガサと音を立て声の持ち主がどんどん近づいてくる。まだ姿は見えぬものの、気を持て余したような幼い声に聞き覚えがあるキュリオ。
「…………」
キュリオは無言のまま、近づく気配へとさらに冷たい視線を投げつける。
「……あっ! キュリオさまぁあっっ!!」
ほどなくして姿を現したのは、予想通りの女児の姿だった。
美しく佇む銀髪の王を視界にとらえた少女は派手なドレスの裾をたくし上げ、相手の迷惑などどこ吹く風といった様子でキュリオの胸元へ飛び込んだ――
「寒くないかい?」
「きゃぁっ」
差し出されたそれがミルクとわかったアオイは嬉しそうに声をあげ、欲するように彼の手ごとペタペタと触り始めている。
「適温になるまでもう少し待っておくれ」
幸せそうに微笑みながらキュリオは庭の端にある果実の木を目指して歩く。
庭へ出たふたりの頬を爽やかな風が手をこまねくように誘う。ゆるやかに靡いた銀の髪が自ら光を発するように輝くと、足元に広がる花々が眠りから覚めたように次々と蕾を花開かせてゆく。
やがて水蜜桃の木の下にたどり着いたキュリオとアオイ。瑞々しく甘やかな香りが辺りに漂い、それが頭上になる宝石のような果実の仕業だと小さいアオイが理解するまでには少し時間がかかった。
「そろそろ熟れてきただろうか」
「……?」
キュリオの呟きにアオイが顔を上げると、すぐそこには可愛らしい桃色の実が砂糖菓子よりも甘くとろけるような香りを放ち、その身を魅惑的に重そうに揺らしている。その様子をじっと見つめていた赤子は初めて目にする果実に好奇心をくすぐられ、口角をあげながらキラキラと瞳を輝かせている。
「そうだ。朝食に出してもらおうか? とても柔らかい果実だからアオイも食べられるはずだ」
腕の中のアオイに視線を下げ、ふふっと笑ったキュリオは頭上にある熟れた実をひとつ手中へおさめる。
この果実は女性の美しさ・招福・長寿などの意味を持っており、縁起の良いものとして知られている。彼女を愛してやまないキュリオとしては、是非ともアオイに食してもらいたいのだ。
――こうして二人は水蜜桃の木の下で穏やかな時間を過ごし、頃合いになったであろうミルクボトルを傾けながら静かな朝の庭園を楽しんでいた。
しかし、それは突如……けたたましい声によって破られ――
「な、なりません!! 五の女神様っ! この庭はキュリオ王のものですぞっっ!!」
やや年老いた男の声が静かな庭園に響いた。
「…………」
(……なにごとだ?)
不機嫌さを含んだキュリオの眼差しが声のしたほうへと向けられると、先ほどとは別の人物の声が港に着いたことを知らせる船の汽笛のように空気を震わせて耳に届く。
「今日くらいいいじゃない! 私の誕生日なんだからっ!!」
ガサガサと音を立て声の持ち主がどんどん近づいてくる。まだ姿は見えぬものの、気を持て余したような幼い声に聞き覚えがあるキュリオ。
「…………」
キュリオは無言のまま、近づく気配へとさらに冷たい視線を投げつける。
「……あっ! キュリオさまぁあっっ!!」
ほどなくして姿を現したのは、予想通りの女児の姿だった。
美しく佇む銀髪の王を視界にとらえた少女は派手なドレスの裾をたくし上げ、相手の迷惑などどこ吹く風といった様子でキュリオの胸元へ飛び込んだ――