【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
「マゼンタ、……キュリオ様の前でそんな……っ……」
鋭い妹の指摘にたじろぐウィスタリア。なんとか突いて出た言葉を回収しようとあたふたするがそんな努力も虚しく、キュリオへの遠回しな愛の告白がマゼンタ口から辺りに響き渡る。
「じゃあどういうつもり!? 私が納得できるような説明用意してるんでしょうね!」
「そ、それは……」
もはや自分の気持ちに気づいていないはずはないと、わずかな期待を込めて銀髪の王の顔を見やるが――
「…………」
「……っ、……」
(そうよね、私のことなんて……)
表情のない顔に気怠げな瞳のキュリオに胸が苦しくなる。やがて肩を落としたウィスタリアの耳に届いたのは、短い幸せな時間を打ち破るかなりの人数の足音だった。
起床時間にも満たない早朝に騒々しい声を聞きつけた女官や侍女が急いで身だしなみを整え、続々と中庭へと集まってきたのだ。
「……キュリオ様」
眉間に縦皺を深く刻んだ女官が主の指示を仰ごうと一歩進み出る。
「…………」
しかしキュリオの無言の返答に、女官たちは彼の命令が出るまで大人しく後方で待機するしかない。
「だいたいねぇ! 昨夜遅くまで何着て行こうかって迷っていたじゃない! 私が主役なのに!!」
「マゼンタ、お願い……もうやめてっ……」
「…………」
(いい加減アオイの体が冷えてしまうな……)
持ち上げていた赤子をゆったりとした動作で胸元へ戻すと、指先で彼女の頬を優しく撫でる。
聞き慣れない声に驚いた様子を見せていた彼女は、キュリオの視線が己に向けられると安心したように笑みを浮かべる。
「少し待っていてくれるかい?」
愛しさから自然と湧き出る柔らかな口調と表情にキュリオの美貌が一段と輝きを増すと――
「……っ!」
まさか自分に向けられた言葉かと期待に胸を弾ませたウィスタリアの視線が銀髪の王を捉えるが、キュリオはこちらを向いておらず腕の中の何かに微笑んでいる。それはまるでこちらの存在を意識から除外したような冷酷な態度だったが、それ以上に彼が胸元に抱く”何か”に胸がざわめく。
「……キュリオ様、……それ、は……?」
上質な王の衣にペットなど包もうか? 嫌な予感に警鐘を鳴らす心音の理由がわからない。彼の傍らに愛らしい女性が立って居ようものなら話はわかるが、両手に収まってしまうほどの小さい何に自分は怯えているのだろう?
「ちょっと! 私の話聞いてる!?」
ウィスタリアに無視されたマゼンタは激昂して姉へと詰め寄ったが、怯えた彼女の瞳を目にし、思わず大好きな王を振り返った。
「話は終わったのかい?」
この場合、言い争いというのが正しいかもしれない。そんなものに付き合ってやる義理はないが、愛しい赤子の前で大声をあげるのはしのびなかったキュリオ。
彼は熱を感じさせない声と瞳をこちらへ向け、やがて腕の中の塊を後方に待機する女官へ手渡した。
「……彼女を頼む」
「かしこまりました……」
受け取ったそれを大切に抱えた女官を囲むように数人の侍女がそのまま城へと戻り、キュリオはその後ろ姿を静かに目で追っている。
「……なに……? いまの……」
キュリオの名残惜しそうな表情を初めて見たマゼンタは少なからず胸騒ぎを覚え隣の長女を見やる。
「…………」
(ウィスタリア……悲しそう……)
鋭い妹の指摘にたじろぐウィスタリア。なんとか突いて出た言葉を回収しようとあたふたするがそんな努力も虚しく、キュリオへの遠回しな愛の告白がマゼンタ口から辺りに響き渡る。
「じゃあどういうつもり!? 私が納得できるような説明用意してるんでしょうね!」
「そ、それは……」
もはや自分の気持ちに気づいていないはずはないと、わずかな期待を込めて銀髪の王の顔を見やるが――
「…………」
「……っ、……」
(そうよね、私のことなんて……)
表情のない顔に気怠げな瞳のキュリオに胸が苦しくなる。やがて肩を落としたウィスタリアの耳に届いたのは、短い幸せな時間を打ち破るかなりの人数の足音だった。
起床時間にも満たない早朝に騒々しい声を聞きつけた女官や侍女が急いで身だしなみを整え、続々と中庭へと集まってきたのだ。
「……キュリオ様」
眉間に縦皺を深く刻んだ女官が主の指示を仰ごうと一歩進み出る。
「…………」
しかしキュリオの無言の返答に、女官たちは彼の命令が出るまで大人しく後方で待機するしかない。
「だいたいねぇ! 昨夜遅くまで何着て行こうかって迷っていたじゃない! 私が主役なのに!!」
「マゼンタ、お願い……もうやめてっ……」
「…………」
(いい加減アオイの体が冷えてしまうな……)
持ち上げていた赤子をゆったりとした動作で胸元へ戻すと、指先で彼女の頬を優しく撫でる。
聞き慣れない声に驚いた様子を見せていた彼女は、キュリオの視線が己に向けられると安心したように笑みを浮かべる。
「少し待っていてくれるかい?」
愛しさから自然と湧き出る柔らかな口調と表情にキュリオの美貌が一段と輝きを増すと――
「……っ!」
まさか自分に向けられた言葉かと期待に胸を弾ませたウィスタリアの視線が銀髪の王を捉えるが、キュリオはこちらを向いておらず腕の中の何かに微笑んでいる。それはまるでこちらの存在を意識から除外したような冷酷な態度だったが、それ以上に彼が胸元に抱く”何か”に胸がざわめく。
「……キュリオ様、……それ、は……?」
上質な王の衣にペットなど包もうか? 嫌な予感に警鐘を鳴らす心音の理由がわからない。彼の傍らに愛らしい女性が立って居ようものなら話はわかるが、両手に収まってしまうほどの小さい何に自分は怯えているのだろう?
「ちょっと! 私の話聞いてる!?」
ウィスタリアに無視されたマゼンタは激昂して姉へと詰め寄ったが、怯えた彼女の瞳を目にし、思わず大好きな王を振り返った。
「話は終わったのかい?」
この場合、言い争いというのが正しいかもしれない。そんなものに付き合ってやる義理はないが、愛しい赤子の前で大声をあげるのはしのびなかったキュリオ。
彼は熱を感じさせない声と瞳をこちらへ向け、やがて腕の中の塊を後方に待機する女官へ手渡した。
「……彼女を頼む」
「かしこまりました……」
受け取ったそれを大切に抱えた女官を囲むように数人の侍女がそのまま城へと戻り、キュリオはその後ろ姿を静かに目で追っている。
「……なに……? いまの……」
キュリオの名残惜しそうな表情を初めて見たマゼンタは少なからず胸騒ぎを覚え隣の長女を見やる。
「…………」
(ウィスタリア……悲しそう……)