【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
 近づく複数の気配にティーダは再度アオイへと視線を落とした。

「こんなかたちでお前を巻き込むつもりはなかったが……ごめんな」

「……っ……」

 切ない笑みを向けられたアオイはさらに涙を流す。キュリオに会える嬉しさに心を高鳴らせるも……やはり手放しで喜ぶことができない。
 戸惑うアオイに気づかないティーダは小さな幼子をソファへ座らせようと考えたが、暴走したキュリオの攻撃に彼女が巻き沿いをくらってしまうかもしれないという不安がよぎる。

「俺の腕の中でいいか?」

 ティーダがアオイに同意を求めると――
 グラリと視界が歪み、足元が急激に不安定になる。そしてその体はゆっくり沈みはじめ――

「……っ!?」

 一瞬驚いて床に目を向けるが、まるで液状化してしまったようにティーダの体はどんどん飲み込まれていってしまう。

「この気配……」

 気が付けば部屋中に仄暗い靄(もや)が漂い、ティーダは眉間に皺をよせあたりを伺う。やがておおよその見当がついた彼はため息とともに漆黒の翼を広げ、己を捉える妙な術から抜け出そうと大きく羽ばたいた。

 ――が、足元から這い出た巨大な鎌によって体の自由が奪われてしまう。

「……なんの真似だマダラ」

 ティーダは肩にかかった大鎌からアオイを守るように彼女の全身を両腕で覆う。

『ふふっ……キュリオ殿とやり合うつもりかい?』

 どこからともなく響いた冥王の声。話の内容はともかく、どこか楽しそうなのは彼の性格なのだろうか?

「邪魔するんじゃねぇよ」

 ――グッ

 不機嫌そうに言い捨てた紅蓮の王の声に冥王の大鎌が強く腕にめり込んできた。そしてタラリと流れたティーダの鮮血。

「…………」

『君が勝てるとでも? ”若気の至り”じゃすまない相手だってわかってる?』

「俺に関わるな。中立の死の国は手出し無用のはずだぜ」

『……賢くない生き物は嫌いだよ』

 冥王の声に怒気が孕み、静かな苛立ちを露わにした彼のオーラが色濃く渦巻いていく。ゾクリとする冥王の殺気は彼独特の死を匂わせる不気味なものがある。

『腕の中のモノを生かしておきたいなら僕の言うことを聞いたほうがいいと思うけどね……』

「お前……本気か?」

『……さぁね?』

 クスクスと笑う冥王の声とは裏腹に大鎌はどんどんティーダの腕を痛めつけていく。


< 159 / 212 >

この作品をシェア

pagetop