【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
消えたダルド
ダルドが湯殿に入ってからすでに随分な時間が過ぎようとしていた。
キュリオの力により浄化された湯のため、体の汚れを落とす手間は不要だとあらかじめ伝えておいたのだから長湯は心配になる。
(もしかしてお着替えに戸惑っていらっしゃるのかしら……)
客室の湯殿へとつながる通路を経て、部屋のなかで待機していた侍女は意を決して歩みを進める。
やがて湯殿の扉を叩いた彼女は伺いをたてるように声をかける。
――コンコン
「失礼いたしますダルド様。……お手伝いできることはございませんか?」
用意した召物は彼の手が届くよう湯殿のなかの片隅に置いてあるため、ダルドがどのような状態であるかはこちらから伺い知ることはできなかった。
「…………」
言葉を探しているのかと思い、しばらく待ってみるが……一行に返事はかえってこない。
「……?」
耳を澄ましてみても聞こえてくるのは止めどなく流続ける美しいオブジェからの湯の音のみだった。
「……ダルド様? 開けますよ?」
ガチャ――……
湯煙が上がるなか、必死に目を凝らしてみてもキュリオの友人の姿はどこにも見当たらない。
「ダルド様っ!?」
まさかと思いながら煌めく湯の中を覗き込みながら駆けまわるが、淀みのない湯は居なくなった人の影など留めていなかった。
「……うそ、一体どこへっ……」
ふたつの扉を隔てた彼女の横を彼が通り過ぎた形跡などなく、扉以外を使ったのだとしたら……広大な庭を見渡せる、この開放的な湯殿奥からそのまま飛び出したとしか考えられない。
「……た、大変っ! だ、誰かっ!!」
いくら二階に位置するこの部屋といえど、普通の民家とはくらべものにならないくらいの高さがある。落下しようものなら怪我をするだけではすまないかもしれないのだ。
キュリオの力により浄化された湯のため、体の汚れを落とす手間は不要だとあらかじめ伝えておいたのだから長湯は心配になる。
(もしかしてお着替えに戸惑っていらっしゃるのかしら……)
客室の湯殿へとつながる通路を経て、部屋のなかで待機していた侍女は意を決して歩みを進める。
やがて湯殿の扉を叩いた彼女は伺いをたてるように声をかける。
――コンコン
「失礼いたしますダルド様。……お手伝いできることはございませんか?」
用意した召物は彼の手が届くよう湯殿のなかの片隅に置いてあるため、ダルドがどのような状態であるかはこちらから伺い知ることはできなかった。
「…………」
言葉を探しているのかと思い、しばらく待ってみるが……一行に返事はかえってこない。
「……?」
耳を澄ましてみても聞こえてくるのは止めどなく流続ける美しいオブジェからの湯の音のみだった。
「……ダルド様? 開けますよ?」
ガチャ――……
湯煙が上がるなか、必死に目を凝らしてみてもキュリオの友人の姿はどこにも見当たらない。
「ダルド様っ!?」
まさかと思いながら煌めく湯の中を覗き込みながら駆けまわるが、淀みのない湯は居なくなった人の影など留めていなかった。
「……うそ、一体どこへっ……」
ふたつの扉を隔てた彼女の横を彼が通り過ぎた形跡などなく、扉以外を使ったのだとしたら……広大な庭を見渡せる、この開放的な湯殿奥からそのまま飛び出したとしか考えられない。
「……た、大変っ! だ、誰かっ!!」
いくら二階に位置するこの部屋といえど、普通の民家とはくらべものにならないくらいの高さがある。落下しようものなら怪我をするだけではすまないかもしれないのだ。